―「旧高取邸」は日本伝統文化の教科書―

 旧高取邸は炭鉱主として成功した高取伊好(たかとりこれよし1850~1927)の旧宅で唐津城本丸西側の海沿いに立っています。
1905年に建物の主要部が建設されたのち、昭和初期にかけて増築され、敷地面積は約2,300坪(7,610㎡)、大広間棟と居室棟から成る建物は約423坪(1,396㎡)の広さです。
 1997年に高取家から唐津市に寄贈された建物は、その翌年にはその意匠のすばらしさが評価され、国の重要文化財の指定を受けました。その後大規模な修復・復原工事が施され、2007年には「旧高取邸」として開館。国内外から多くの来館者を迎えています。

 旧高取邸の魅力は、和風建築を基調としながらも、玄関横に本格的な洋間を持ち、明治、大正時代の息吹を感じる和と洋の調和のとれた建物。そして邸内のいたるところで見られる芸術品ともいえる当時の巧の技です。また外国人旅行者や、生活様式が西洋化した今の日本人にとっても、旧高取邸は、日本建築、歴史、美術、伝統芸能など日本文化を幅広く学ぶことができる素晴らしい教材といえます。

 邸内の和室には様々な銘木が床柱として使われており、植物の浮き彫りや、型抜きの動物を施した欄間も見どころ。当主高取伊好氏没後に増築された仏間は、総漆塗りの仏壇や花頭窓が禅宗の寺院を思わせる荘厳な作りです。宗偏流の四畳半の茶室と露地。大理石の暖炉がある和室。シャンデリアを施した2階大広間からの唐津湾の景色。そして丸山四条派の絵師が花鳥風月や中国の故事を描いた72枚の杉戸絵。さらに高取家隆盛の象徴ともいえる能舞台。本来は15畳の大広間ですが、敷居や畳を取り外すことで日本の伝統古典芸能の凛とした空間と変化します。

 「決して華美ではないが、奥深い品格のある建物と庭」と評される旧高取邸。
近代日本の発展を支えた石炭産業の繁栄を、ここ唐津も担っていたことを物語っています。そして訪れる人をその当時にいざないます。